
鉄骨業界をはじめとする建設分野で世界的に注目を集める、詳細設計向けBIMソフトウェア『Tekla Structures(テクラ ストラクチャーズ)』。
その開発元である株式会社トリンブル・ソリューションズのマーケティング部ご担当者様に取材させていただきました。
LOD500対応の詳細度、全自動加工ラインとの連携によるデジタルファブリケーションの実現、製作図自動生成機能、さらにBIMモデル内承認という革新的な取り組みについて、詳しく伺っています。
『Tekla Structures』は、単なる設計ツールではなく、現場と製造をつなぐ“本当に役立つBIMの姿”へと進化しています。鉄骨設計・製作・施工に関わるすべての方にぜひご一読いただきたい内容です。
各フェーズごとにみた『Tekla Structures』ならではの使用メリットとは?
steelnavi : 建築プロジェクトの初期段階、企画・設計フェーズにおけるTekla ならではの使用メリットをお聞かせください。
『Tekla Structures』は、企画・設計といった初期フェーズでも有効に活用していただいておりますが、特にその真価を発揮するのは、設計・製作・施工フェーズを一気通貫でつなぐBIMソリューションとしての活用です。

設計事務所や建設会社が作成したBIMモデルを鉄骨ファブリケーターが活用し、加工レベルの詳細BIMモデル(As-Built BIM モデル1)を作成することで、図面からのデータ再入力の手間を省き、プロジェクトの効率化を図ることができます。
- As-Built BIMモデルとは? ↩︎
実際に施工された建物の状態を正確に反映したBIMのこと。
設計段階のBIMモデルが「施工(こう作る)予定」から作られるモデルデータであるのに対し、As-Built BIMモデルは、設計変更や現場での調整も含めて、「実際に施工された建物の状態(こう作られたという状態を正確に反映した)」という最終形のモデルデータのこと。
steelnavi : 特に設計・製作・施工フェーズで真価発揮ということですね。では各フェーズでのメリットをお聞かせください。
『Tekla Structures』の他社製品にはない優位性を各フェーズごとにまとめました。
設計フェーズ 製作・施工を見据えた“建設可能なモデル”を作成
LOD500対応の詳細度
一般的な部材寸法や形状にとどまらず、製作・施工に直結する必要な全ての詳細と情報を1つのモデルに集約。業界屈指の詳細モデルは、施工現場での手戻りや修正作業を極限まで削減します。
微細な干渉チェック
梁・柱などの主要部材のみならず、プレート・ボルト・溶接ビードまで考慮した高精度な干渉チェックが可能。手戻り要因を事前に防止します。
図面・帳票と完全連動
モデルを修正すると、図面・部材情報・帳票も即座に一括自動更新され、入力の二度手間・ミスを防ぎます。
快適な共同設計機能
Tekla独自の軽量・差分同期エンジンを実装、数十万点の部材が含まれる大規模モデルでも複数人で軽快に共同編集できます。大型案件も快適に共同設計が可能です。
BIMモデル内での承認作業
図面で行っていた承認作業をモデル上で完結。NG部材の色分け表示や履歴管理により、チェックミスを防ぎ、設計~施工まで円滑に連携します。
製作フェーズ 完全自動化にも対応したBIMモデルを提供
加工・組立ロボットとの完全連携
Teklaのモデルから直接、穴あけ・切断・溶接・組立まで正確に自動指示が可能に。
施工フェーズ 建方精度と現場対応力の飛躍的向上
As-Built BIMモデルでそのまま施工
工場で使う詳細モデルを現場でもそのまま活用でき、高精度な建方が実現します。
リアルタイム共有
クラウド経由で、設計・製作・施工チームが常に最新の情報を共有し、連携することができます。
『Tekla Structures』は、設計、製作、施工の各フェーズにおいて、情報の精度を極限まで高め、手戻りをなくすことで、全体効率と品質の飛躍的向上を実現。
鉄骨ファブリケーターが持つポテンシャルを最大限に引き出し、業界での競争力を高めます。
ユーザーから高評価「モデリングの汎用性の高さ」を4つの視点から分析
steelnavi : モデリングに関する汎用性の高さが特に優れていると認識しています。詳しくお聞かせください。
『Tekla Structures』は、「どんな構造・どんな規模・どんな設計者でも使えるBIM」を実現する、モデリングの汎用性に優れたソリューションです。その強みを4つの視点からご紹介します。
1. LOD500の業界最高峰の詳細度と情報量で、製作レベルまで表現できる
LOD(Level of Development)500とは、BIMモデルの最も詳細なレベルを指します。一般的な部材寸法や形状にとどまらず、製作に直結する必要な全ての情報を含みます。
『Tekla Structures』では、細部にわたる高い再現性を通じ、建設可能な詳細レベルの3Dモデル(As-Built BIM モデル)を作成をすることで、現場での手戻りや不要な修正作業を撲滅することを目的としています。
柱や梁といったメインの構造体に加えて、金物も含む施工に必要なあらゆる構成要素を詳細にモデリングできます。

モデリング具体例
- らせん階段
- 手摺
- ファスナー
- タラップ
- 吊りピース
- ネット受けピース
これにより、汎用CADで図面を別途加筆・修正する手間が一切不要になります。つまり、『Tekla Structures』のBIMモデルには、建物全体が「まるっと」収まっている、と考えてください。
2. 構造形式も規模も選ばない対応性で、あらゆるプロジェクトにフィット
『Tekla Structures』は鋼構造に限らず、コンクリート(配筋含む)や木造にも対応しており、材質・構造形式を問わず柔軟に活用可能です。
複雑な形状や特殊な構造、大規模物件にも対応できる拡張性を備え、あらゆるジャンルのプロジェクトに適応します。
また、極めて詳細なBIMモデルでも動作が重くならず、スムーズに操作できる高い処理性能も特長です。LOD500レベルの膨大な情報量にも耐えられるため、大規模・高精度を求められる現場でも安定した作業が可能です。
こうした柔軟性と処理性能の高さにより、国内外の大型商業ビル、スタジアム、産業プラント、橋梁など、数多くの大規模・特殊プロジェクトで導入されています。国内では、東京スカイツリーや読売ランド新観覧車をはじめ、著名プロジェクトでも採用されています。

また、毎年開催される「Tekla Global BIM Awards」では、 世界各国から150を超える革新的なBIMプロジェクトがエントリーし、業界最高水準のモデルが紹介されています。
3. 大規模モデル対応、快適な「共同モデリング機能」

大規模なBIMモデルを複数人で扱う際、データ量の増加により動作遅延や同期トラブルが発生しやすくなります。
『Tekla Structures』は、複数人がクラウド上で同時かつ快適に作業できる「Tekla Model Sharing(テクラ モデル シェアリング)」 機能を備えています。
数十万点の部材を扱う大型モデル でも、高速かつ安定した共同編集を実現します。
実用的コラボレーション、3つの特長
差分更新によるスムーズな同期
Tekla独自の差分更新方式により、変更内容のみを効率的に同期。編集内容は即座に反映され、他のユーザーも常に最新のモデル状態を保ちながら、スムーズに共同編集が行えます。
ユーザーごとのアクセス管理
ユーザーごとに「編集者」「閲覧者」など細かなアクセス権限を簡単に設定できるため、情報漏洩や誤操作を防ぎながら、安全なチーム運用が可能です。
変更リストの自動表示
モデル内の変更箇所はリストで可視化され、レビューの手間を削減。エラーや設計ミスを早期に発見・修正できるため、作業の質も高まります。
4. モデリングの自動化を支える「コンポーネント機能」
「コンポーネント機能」とは、部品や詳細部のモデリングを自動化できる機能です。簡単な操作や数値の入力で、複雑な接合部や金物などもスピーディーに自動作成することが可能です。

さらに、この「コンポーネント機能」は、基本的な寸法や条件(パラメータ)を入力することで、形状が自動的に変更される仕組み(パラメトリック コンポーネント)も備えています。
パラメトリックコンポーネントでできること(一例)
- ピースを一定間隔で連続配置
- 梁のサイズに応じて、プレート寸法やボルト数を自動調整
steelnavi : パラメトリックモデリングで、作業の効率も大幅アップしますね。
一度設定しておけば、類似形状の部材や接合部は繰り返し自動生成が可能で、プロジェクトをまたいで再利用することもできます。
会社ごとの設計基準に沿って詳細部を標準化することで、設計品質の安定と、設計の均質化・効率化を実現します。
LOD500レベルの精緻なモデリング、構造や規模を問わない適応性、クラウド上での協業、自動設計を支えるコンポーネント機能。
これら4つの柱により、『Tekla Structures』はあらゆるプロジェクト・あらゆる設計者にフィットする圧倒的なモデリング汎用性を提供します。詳細設計の自由度と品質が両立し、BIM活用の可能性が大きく広がります。
『Tekla Structures』を活用した、日本初の「BIMモデル内承認」
steelnavi :竹中工務店は、『Tekla Structures』を活用して日本で初めて「BIM モデル内承認」という革新的な取り組みを実施し、建設業界における BIM 活用の先進事例として注目されました。詳しくお聞かせください。
従来、図面上で実施されているチェックや承認作業を、『Tekla Structures』のBIMモデル上の製品情報をチェックすることにより、提出用図面の作図工数、提出用図面に対するチェック工数、2次元図に対する人の手による誤作図(ヒューマンエラー)防止等の効果が実現でき、大幅な業務効率の向上、品質の確保に成功されている事例です。
常に最新のBIMモデル情報をプロジェクト関係者が共有し、BIMモデル内で直接承認作業を行っていることが特徴であり、設計や作業所の各担当者が承認した記録はモデル内に記録され、NGまたは承認保留の部材は色分け表示するなど、正確で効率的な承認作業が実現されました。
steelnavi :各担当者が承認した記録までBIMモデルに反映されるのですね。
鉄骨ファブリケーター側にも工数削減の大きなメリットがあったことから、今後の普及が期待されています。
さらに、今回の取り組みでは、構造設計段階で作成されたRevitデータを『Tekla Structures』のデータに変換して鉄骨ファブリケーターに共有され、詳細設計と並行してそのBIMモデル内で承認が行われたプロセスも話題となりました。
steelnavi :それは本当に革新的ですね!こうした取り組みが広がれば、建設業界全体の働き方も大きく変わっていきそうです。
BIMモデルデータとロボットとの連動、完全自動化のファブリケーション体制を構築
steelnavi :全自動加工ラインとの連動によって、最先端のファブリケーションを実現しています。 詳しくお聞かせください。
自動加工機とのダイレクト連携
『Tekla Structures』は、国内主要メーカーの自動加工機と直接連携が可能です。3Dモデルから生成されたNCデータ(加工指示を与えるためのデジタルデータ)を各加工機に送信できるため、手作業による加工情報の入力作業工数を大幅に削減できます。
steelnavi :事例・実績があればお聞かせください。
例えば、アマダの複合加工機「WS-1000」とNCプログラムを通じてダイレクトなデータ連携が可能です。Teklaモデルから直接NCデータを出力できるため、設計と製造の間の図面作成等の工数が大幅に削減されます。
加えて、加工担当者が現場で使用する「チェック図」は、3Dモデルをもとに自動生成され、タブレット端末などでリアルタイムに確認可能です。これにより、製作ミスを未然に防ぎ、工場の作業効率の向上に寄与します。

連携実績のある主な加工機メーカー
- アマダ
- 大東精機
- 丸秀工機
- ヤマザキマザック
鉄骨一次加工機械との連動を実現されている会社も増えてきましたが、近年は全自動梁組立ロボットとの連動も話題になっています。
自動梁組立ロボットとの連携
『Tekla Structures』は、全自動梁組立ロボットを稼働させるために必要な情報を、BIMモデルから直接出力できる専用機能を備えています。これにより、ZEMAN社製をはじめとする全自動梁組立ロボットとのダイレクトなデータ連携が可能です。
BIMモデルから出力される精密な梁・プレート・溶接情報をもとに、部材の仕分け・搬入・組み立て・溶接・製品搬出の一連の工程を、全自動で処理することを実現しています。
これにより、完全自動化されたデジタルファブリケーション体制を構築でき、生産の無人化・夜間稼働・工程の均質化など、鉄骨製作の生産性を飛躍的に向上させることが可能になります。
steelnavi :無人化や24時間稼働が可能になれば、繁忙期にも人的制約を超えた生産体制が実現できますね。
実際に導入いただいた株式会社渡邊鐵工所様では、『Tekla Structures』とZEMAN社製の全自動梁組立ロボットを連携させることで、製作ラインが二交代制となり、月産量が700トンから1000トンへと約30%向上しました。

『Tekla Structures』は、作図・積算・発注・鉄骨加工・組み立て・品質管理などの各工程でBIMデータを一気通貫で活用できるのが大きな強みです。
設計と製造の間にある情報の断絶をなくし、BIMモデルを起点とした「デジタルファブリケーション」を実現します。
最新機能:AIを活用した次世代の「製作図自動作成機能」
steelnavi :『Tekla Structures』の最新機能をご紹介ください。
2025年3月にリリースしたバージョン2025には、様々な改良や新機能が搭載されました。
注目される新機能の一つは、AIを活用した次世代の「製作図自動作成機能」です。
従来の図面複製機能がさらに進化。各ユーザー毎に生成されている過去の図面データベース内から、最も類似した形状をAIが検索し、図面の体裁や設定をもとに、完成度の高い製作図を自動作成するというものです。

steelnavi :今後もAI分野では、さらなる生産性の向上が期待されますね。
日本国内向け機能も継続的に開発を行っており、一例として、H形鋼や鋼管を対象に、ガセットプレートやリブ、スチフナ、スプライスジョイントを一括で自動作成する機能が強化されました。

▼Tekla Structures 2025 最新情報はこちらをご参照ください。
『Tekla Structures 2025』スマートオートメーションと、相互運用性を兼ね備えた効率的なワークフロー
記事まとめ
現場と製造をつなぐ“本当に役立つBIMの姿”へと進化
steelnavi :鉄骨業界におけるBIMの進化は、単なる設計ツールの枠を超え、施工現場との連携や承認プロセスの効率化、さらにはAIによる自動化へと多岐に広がっています。中でも『Tekla Structures』は、精度の高いモデル作成と柔軟なデータ連携により、現場での強力なプラットフォームとして“本当に役立つBIMの姿”へと進化しています。
今後、BIM対応の標準化が進む中で、設計・施工・管理までの各フェーズを超えた「情報共有」が重要となります。鉄骨業界でも、こうした最新技術を積極的に取り入れ、よりスマートで効率的な建設プロセスに対応して行くことが、業界全体のさらなる発展に繋がると期待しています。
